4/22/2012

エベレスト・パラダイムシフト-後編-

あれは去年の10月か11月の事だ。
当時僕は人生最大の挫折を迎えていた。iBTの点数がいくらやっても上がらなかったからだ(無題参照)。何かが足りないのに、何が足りないのか、どうやって補えば良いのか分からなかった。そのくせ11月からは卒論の執筆が本格的に始まり朝から晩まで研究室で執筆。英語の勉強に時間を割いている暇など無くなることが明々白々だった。
12月にはapplyを終えようと思っていたのに、それもどうやら難しそうだ・・・どんなサイトを見ても『渡米前年の夏にはTOEFLでスコアをとり、12月から、遅くとも1月にはapplyを終えましょう』なんて朗らかなトーンで書いていやがる。フザケンナ(だからこそ同じ境遇に居る誰かにこのブログが役に立つと信じるのだが)。

とにかく、英語に対する自信を失ったことと、留学準備が全く終わらない恐怖で僕は一人不安で狂いそうだった。周りには同じ境遇の人間などいないし、大学受験の時とは違って、孤独で、不安で、本当に押しつぶされそうだった。
そんな精神状態で迎えた11月。予想された通り、朝から終電まで研究室に籠もる生活が続いた。

とはいえ11月の僕はそんな生活を僕は楽しんでいた。冗談ではなく、本当に、楽しんでいた。
だって卒論に『不合格』は(99%)存在しないし、執筆する仲間や助けてくれる先生方が周りに居たし、何よりiBTの事や留学のことを考える暇が無かったから。卒論は留学準備を控えた僕にとって「一つのタスク」位に感じられたし、その「タスク」に失敗が無くて仲間も居るとなれば、それはそれは簡単なタスクだと思っていた。

だが12月になると状況は一変した。笑
朝から晩まで論文に打ち込み、考察し、結論を出そうとする。
来る日も来る日も執筆し、考察し、結果を出そうとする。
余分なものを削いで、削いで、針の先のような世界に立ち、自分にしか分からない「研究」なるものと格闘する―そのことは、やはり僕に大きなプレッシャーを与える事になった。まぁiBTと戦ったのが長かった分、そちらのプレッシャーの方が大きかったと思うが、それでも辛い時期だった。

1月6日。卒論提出日。
無事卒論を提出し終えた僕は、すぐ同月末に控えた院試に向けてフォーカスせざるを得なかった。内部進学とはいえ自分の専門を洗いざらい勉強する事はなかなか大変だった(ちなみに出た問題は人類学における「贈与」と「交換」の概念を区別して論じ、市場社会と非市場社会においてそれぞれの概念がどのように働くかというものだった。どうでも良いが。)。

1月26日に院試を終えると、次は2月22日のラストチャンス・iBTに全てを賭けて勉強を開始する。覚える単語数を増やし、リーディング量を増やし、スピーキング量を増やし・・・。

文字通り一つ一つが山場だったわけだが、2月のiBTを終えた辺りから気づき始めていた事があった。
前編にも書いた通り、一つは自分の「思考力」や「日本語力」が落ちていた事。
そしてもう一つは「目の前にある山」に全精力を傾ける事が、かえって自分にプレッシャーを与えるという事。「目の前にある山」に集中する事は、その山の高さに関わらず、「今超えるべき山」としてしか認識されない。だけど、もしその山に比較対象があったのなら、その山の高さは「相対化」される。iBTに集中していた僕は、「卒論執筆」を「タスク」として「相対的に低く」見る事が出来た。これは初めから卒論に集中していた人に比べたときの、大きな違いだと思っている。だけど卒論に集中しすぎた僕の目の前には、いつしか「卒論」は「絶対的かは分からないが」「高い」山として認識されてしまい、大きなプレッシャーを与えるようになった。



平たい例えを使おう。



「生涯をかけてエベレストに登ろうとする人」と、
「生涯をかけてエベレスト級の山に3つ登ろうとする人」では、
エベレストに対するプレッシャーが異なる。



これが僕のエベレスト・パラダイムシフトだ。

単に「目標は高く」という事ではなくて、色々な考え方に通じると思う。
例えば、マルチタスクをこなせる人は、マルチタスクをこなせる人だからこなせるのではなく、マルチタスクをこなすからこなせるようになるのだと思う。「仕事は忙しい人に頼め」というやつで、つまり仕事を多く抱える人にとって「一つ一つの仕事」は「相対的に小さく」感じるんだと思う。
受験勉強の時、9科目も一度に勉強出来たのも若さ故ではなくて、「一つ一つの科目」が「相対的に小さく」感じたからなのではないか。



目の前にタスクが降ってきたとき、決してそれに集中しすぎてはならないし、させられてはならない。
決してそれが「人生を賭けて登るエベレスト」だと思ってはならない。そんな物は人生に一つあるかないかだろうし、それで十分だ。
どんなに重く見えるタスクも、別のタスクが降ってくれば「相対的に小さく見える」タスクに変わるのだ。


このパラダイムシフトは、なかなか良い収穫だったと思っている。


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